ごあいさつ/令和8年4月より
一般社団法人 飯塚医師会 会長
岩 見 元 照
令和8年度 事業計画
令和8年度を迎えるにあたり、まず国際情勢と経済環境の激変を直視しなければなりません。アメリカ・イスラエル連合軍とイランの武力衝突は激しさを増し、世界のエネルギー供給の要であるホルムズ海峡は事実上の封鎖状態に陥っています。世界の原油の約2~3割が通過するこの海域の緊張は、原油価格の急騰を招き、既にブレント原油は80ドル前後まで上昇し、今後100ドル超えを予測する向きも少なくありません。エネルギー価格の高騰は電気・ガス・物流コストを押し上げ、国内物価の一段の上昇圧力となっており、医療機関の光熱費・材料費・人件費を直撃しています。日本政府は物価高と医療機関の経営悪化を受けて補正予算を編成し、一部の医療機関支援策や診療報酬上の「物価対応」加算などを打ち出しましたが、その効果は限定的で、一時しのぎを出ないのが実情です。令和8年度診療報酬改定についても、医療職の賃上げ確保を主目的とした本体3%強の引き上げが打ち出される一方で、薬価・特定保険医療材料は引き下げとなり、トータルでは医療機関の「経営改善」まで見込める設計とは言い難い状況です。このように、国際紛争に端を発するエネルギー危機と国内物価高が、地域医療の持続性に深刻な影響を与えています。
そのような厳しい環境の中でも、飯塚医療圏の超高齢社会は「成熟期」に入り、医療需要は量から質へ、治す医療から支える医療へ、そして生活の場を中心とした医療へと重心を移しつつあります。人口減少と担い手不足は、医療機関の経営・人材確保・救急体制維持を一層困難にし、地域医療の地盤沈下を現実のものとしかねません。こうした構造変化と経済環境を直視しつつ、本会は行政および地域住民とともに、持続可能な地域医療の将来像を描き、具体的な対策を実行に移してまいります。
1 持続可能な医療提供体制の再設計
第一の重点課題は「持続可能な医療提供体制の再設計」です。地域医療構想は単なる病床削減の議論ではなく、急性期・回復期・慢性期・在宅といった医療機能を、住民の生活圏に即して最適配置する取り組みです。本会は、救急・周産期・小児・精神・災害医療など“最後の砦”となる機能を守りながら、紹介・逆紹介、共同診療、共同利用、退院支援、在宅移行を一体化し、切れ目のない医療連携体制を構築します。医師会はそのハブとして、病院・診療所・介護事業所・行政・消防、そして住民との対話を重ね、机上の計画ではなく現場の実情に根ざした着地点を模索していきます。
2 在宅医療・看取りの質の向上
第二の課題は「在宅医療・看取りの質の向上」です。本会では在宅医療推進委員会を中心に、年間看取り数500人以上を達成してきた訪問診療体制を、無理なく持続させるための方策を検討しています。住み慣れた地域で最期まで暮らしたいという住民の希望を尊重しながら、必要な訪問件数の確保、24時間対応の実効性、多職種連携の標準化、ACP(人生会議)の普及、家族支援に取り組みます。あわせて、不必要な救急搬送を減らしつつ、必要なときには確実に病院につなぐ“往復可能な連携”を重視します。地域のかかりつけ医機能を基盤に、訪問看護、訪問歯科、薬局、ケアマネジャー、施設、病院の各部門が同じ地図を共有できる仕組みづくりを進め、医療者が疲弊しない在宅・看取り体制の構築を目指します。訪問看護ステーションでは、スマートメガネ、電子聴診器、携帯超音波診断装置などのDX機器を活用したオンライン診療連携を会員に提供すべく研鑽を重ねてまいります。
3 人材確保と働き方の再構築
第三は「人材確保と働き方の再構築」です。医師のみならず、看護師、介護職、医療事務、救急隊員、検査技師、放射線技師など、あらゆる職種で人手不足が深刻化しています。本会が運営する看護高等専修学校の合格者は年々減少しており、このままでは飯塚医療圏を支える看護職員の不足が現実となります。この危機感を行政、ハローワーク、教育機関、医療・介護事業者と共有し、域外への人材流出を抑え、地域内で人が循環する仕組みを構築します。特定技能実習生など外国人介護人材の採用支援、採用ミスマッチを減らすマッチング支援、リスキリングや復職支援、タスク・シフト/タスク・シェアの推進に取り組み、医療安全と質を担保しながら業務効率化を進め、現場を疲弊させない改革を進めます。
4 経営と制度への現実的提言
第四は「経営と制度への現実的な提言」です。国際紛争に伴うエネルギー価格高騰と物価上昇は、既に医療機関の光熱費や物品費、人件費を押し上げ、収支を大きく圧迫しています。政府による補正予算や各種支援は一定の効果を有するものの、物価と賃金の構造的上昇を吸収するには不十分であり、令和8年度診療報酬改定も、実質的には医療従事者のベースアップ確保が主目的で、医療機関経営の改善までは見込めない内容となる可能性があります。本会は、こうした現実を踏まえ、国・県・関係団体に対し、地域の実情を反映した診療報酬・補助制度を求めていきます。同時に、各医療機関が単独でコスト増を抱え込むのではなく、共同購入や検査・物流の共同化、ICT基盤の共有など、地域医療連携法人等を活用した「地域単位のスケールメリット」の創出を支援し、地域全体の経営の足腰を強めます。
5 医療DXとデータ活用
第五は「医療DXとデータ活用」です。電子カルテ情報共有や標準化、オンライン資格確認、診療情報の利活用は、運用を誤れば事務負担増につながりますが、正しく設計すれば、紹介状作成の効率化、薬剤情報の共有、重複検査の削減、退院支援や在宅移行、災害時の情報連携などにより、医療の質と効率の双方を高めることができます。本会は医療DX委員会を立ち上げ、現場の声を制度設計に届けるとともに、小規模医療機関でも無理なく導入できる支援方策を模索します。また、自院でオンライン診療を実施しにくい医師国民健康保険加入の先生方の利便性を高めるため、医師会診療所を活用したオンライン診療の仕組みについて検討を進めます。
6 住民との対話と会員基盤の強化
医療は住民との「対話」なくして成り立ちません。ワクチンや感染症、生活習慣病、フレイル、認知症、メンタルヘルスなど、情報が氾濫する時代だからこそ、正確でわかりやすい発信が求められます。本会は、学校医・産業医活動、健診、地域講演、メディア対応などを通じて、住民が「困ったときに相談できる医師会」であり続けられるよう努めます。若い医師や研修医、未入会の先生方にとっても魅力ある医師会であることを重視し、「勤務医とかかりつけ医の集い」を継続開催するなど、勤務医・開業医・多職種が交流しやすい場を整備し、会員基盤の強化と次世代人材の参画を促進します。
成長と革新を続ける検診検査センター、地域の看護職確保に取り組む看護高等専修学校、DXを装着して変貌する訪問看護ステーションは、本会の底力を象徴する存在です。これらの機能をさらに発展させるとともに、会員の先生方、医師会職員、医療・介護など多職種の仲間の力を結集し、激動の時代にあっても地域から信頼される医師会を、共に創り上げていきたいと考えます。以上を令和8年度の事業計画とし、会員各位のご理解とご協力を心よりお願い申し上げます。
重点項目
- 新型コロナウイルス感染症、インフルエンザの周期的流行に応じた医療提供体制の整備
- 地域医療の連携及び対策(地域包括ケアシステムの構築・深化および地域事情に沿った地域医療構想の調整)
- 救急医療対策の推進
夜間の1次救急医療体制の整備、休日在宅当番医制・病院群輪番制・大災害時支援態勢 - 生活習慣病対策、認知症・精神保健対策
- 福岡県医療情報システム(とびうめネット)の拡充
- 組織力強化への取り組み
- 医道倫理の昂揚(自浄作用活性化の推進)
- 各種検診、人間ドック、がん検診、特定健診・特定保健指導事業の推進
- 広報活動、市民公開講座の充実
- 医療法及び医師法改正に関する対応
業務内容(平常)
-
会 務
(1)諸規定の検討
(2)事務の合理化・会計の透明化
(3)職員対策
(4)ブロック医師会との連携強化
(5)医政の強力な展開
(6)行政、関係官庁との緊密な連携 - 会 員
(1)医道倫理の昂揚
(2)生涯研修の充実
(3)保険対策並びに保険審査に対する対応
(4)福祉対策の充実
(5)会員保険の促進
(6)税務対策
(7)医報・広報活動の充実
(8)麻薬・覚醒剤対策
(9)医事調停
(10)医療情報開示
(11)従業員対策 -
地 域 医 療
(1)プライマリケアの充実・福岡県医師会「新かかりつけ医」体制の推進
(2)病診連携の推進
(3)救急医療対策(大規模災害時対策を含む)
(4)健康教育の活発化
(5)感染症(新型コロナウイルス、新型インフルエンザ、麻しん、風しん、MRSA、C型肝炎、B型肝炎)対策
(6)乳幼児保健対策、予防接種の定期接種化実現に向けた活動(おたふくかぜ)
(7)学校医活動
(8)産業医活動
(9)介護保険活動
(10)住民検診・集団検診・人間ドック検診・事業所検診・団体検診の促進
(11)医療・保健・福祉情報システムの整備・充実
(12)認知症初期集中支援チーム活動(複数の専門職が認知症が疑われる人や認知症の人を訪問し、認知症サポート医に相談しながら初期の支援を包括的・集中的に行い、自立生活のサポートを行います。) - 事 業
(1)看護高等専修学校
(2)臨床検査センター並びに検診センター
(3)訪問看護ステーション並びにケアプランサービス